Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像
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ジャン・シメオン・シャルダン Jean-Baptiste-Simeon Chardin
1699-1779 | フランス | ロココ美術・静物画・風俗画




18世紀ロココ様式時代のフランス絵画を代表する巨匠。理知的で堅牢な優れた造形性と、詩情に溢れた静謐な場面描写、繊細でありながら精神性を感じさせる重厚な色彩、柔らかく包み込むような光の表現などで当時、絶大な人気を博す。主に静物画、風俗画家として活躍し、確固たる地位を確立するが、肖像画や寓意画なども残されている。1699年、家具職人(指物師)であった父ジャン・シャルダンと母ジャンヌ=フランソワーズ・ダヴィッドの間にパリで生を受け、18歳(1718年)の時から10年間、宮廷画家ピエール=ジャック・カール、次いでノエル=ニコラ・コワペルに師事するほか、おそらく聖ルカ組合学校でも絵画を学ぶ。1728年、初期の代表作『赤エイ(赤えいと猫と台所用具)』などを王立絵画・彫刻アカデミーの入会選考作品として提出、正式な会員として認められる。1731年、マルグリット・サンタールと結婚。1737年以降、毎回サロンへと出品し好評を博すほか、個々の注文も順調にこなしながら1740年代末頃まで風俗画も精力的に制作。1755年、王立絵画・彫刻アカデミーの会計並びにサロン展示責任者としての任務に就く。その後、当時の国王ルイ15世やロシア女帝エカテリーナ2世など当時の権力者を始めとした貴族社会から絶大な信頼を得ながら数多くの作品を手がけるも、晩年期は著しく視力が衰え、油彩からパステルへと表現を変化させていった。1779年、パリで死去。画家の堅固な造形性は、後期印象派の大画家で「近代絵画の父」とも呼ばれるポール・セザンヌや、20世紀の最も優れた芸術家のひとりであるアンリ・マティスにも影響を与えたほか、キュビズム的表現の先駆ともなった。
Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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赤エイ(赤えいと猫と台所用具)

 (Raie) 1727-1728年頃
114.5×146cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

18世紀ロココ様式時代のフランス絵画の巨匠ジャン・シメオン・シャルダン初期の代表作『赤エイ(赤えいと猫と台所用具)』。制作期と考えられている1728年に、セーヌ川近くのドーフィーヌ広場で開催された青年絵画展に出品されたほか、同年、『食卓(食器棚)』と共に王立絵画・彫刻アカデミーの入会選考作品として提出、同日異例の早さで正式な会員として認められた作品としても名高い本作は赤エイや牡蠣、細長い葱、食器などが置かれる台所と、そこで一匹の猫が毛を逆立て踏ん張る姿を描いた≪静物画≫である。当時、肖像画家として絶大な人気を博していた画家ニコラ・ド・ラルジリエールがこの作品を初見した時、優れたフランドルの画家の手による作品であると見間違え、賞賛したという逸話(17世紀にフランドルの画家が制作した静物画は特に優れていた)も残されている本作の、観る者を圧倒するかのような赤エイを始めとした静物の写実的描写、牡蠣や食器の硬質性と白布の柔軟性の対比的表現、画面全体に漂う静謐な雰囲気の中で際立つ毛を逆立てる猫の激情性、堅牢でありながらも絶妙に静動性の調和が計算された赤エイを頂点とする構図や画面構成などは、28歳という画家の若さからは筆舌し難いほど優れており、老練な出来栄えである。また一見地味な印象すら受ける全体の抑制的な色彩描写の中での、赤エイの歯を見せ笑うかのような口元や切り裂かれた腹から見える血の鮮明な赤色と、赤エイの光の当たる部分でのぬめりを感じさせる白色の描写は観る者を強く惹きつける。本作に表現される静物画における躍動性や力動性は静物画家としての画家の評価と地位を決定付けた。なお「近代絵画の父」とも呼ばれるポール・セザンヌや20世紀を代表する芸術家アンリ・マティスが本作の模写をおこなったことが知られている。

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シャボン玉遊び(シャボン玉吹き)


(Bulles de savon) 1730-1735年頃
93×74.5cm | 油彩・画布 | ワシントン・ナショナル・ギャラリー

ロココ美術の画家ジャン・シメオン・シャルダンによる風俗画作品の中でも最初期に制作されたとされる代表作『シャボン玉遊び(シャボン玉吹き)』。本作以外にも複数のヴァリアントが確認されており、諸説唱えられているものの、一般的には1739年のサロンに出品され、好評を呼び、同時代の版画家ピエール・フィリュールによって版画化された画家の作品とされている本作に描かれるのは、16〜17世紀オランダ(ネーデルランド)絵画でも数多く制作された風俗的画題のひとつ≪シャボン玉遊び(シャボン玉吹き)≫である。ボルティモア美術館が所蔵する『お手玉遊び』の対画とも指摘されている本作に描かれる≪シャボン玉≫は、儚さや虚しさの象徴でもあることから、本作はヴァニタス画(虚栄画)としての性格も強い。画面中央では若い男が慎重に息を吹き込みシャボン玉を膨らませている。その傍らではシャボン玉が大きく膨らんでゆく姿をひとりの少年が見つめている。ごく日常的で素朴(あたりまえ)な光景の中に、張り詰める緊張感は、シャボン玉を膨らませる若い男と後景の少年が集中させるストローの尖端への視線によって、より強調されている。さらに非常に調和的でさり気ない本作の色彩の多様性は、観る者を郷愁を誘うだけでなく、作品の世界へと惹き込むひとつの大きな要因ともなっている。なお画家による風俗的画題の最初期の作品とされる本作の制作年について、かつては1731年から1733年に制作されたとするのが通説であったものの、近年、それよりもう少し後となる1733年から1735年頃とする説が新たに唱えられており、現在も議論や研究が続いている。

関連:ボルティモア美術館所蔵 『お手玉遊び』

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カードのお城(トランプの城)


(Château de cartes) 1736-37年頃(又は1741年頃)
60×72cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

フランスロココ美術の大画家ジャン・シメオン・シャルダンを代表する作品のひとつ『カードのお城(トランプの城)』。本作に描かれるのは、画家の親しい友人であったパリで家具商を営む(また画家の再婚の立会人でもある)ジャン=ジャック・ル・ノワール氏の息子をモデルに、机の上でカード(トランプ)を組み立てる遊びに興じる少年の姿である。その為、本作は『カードのお城を作って遊ぶル・ノワール氏の息子』とも呼ばれている。画家が生涯の中で複数回手がけた画題のひとつである本作に描かれる画題≪カードのお城(トランプの城)≫は、通常「虚栄の寓意(楽しく積み上げたカードはいずれ儚く崩れる)」と解釈され、このような風俗的道徳の主題は16〜17世紀のフランドル(ネーデルランド)絵画からの影響が指摘されているものの、その寓意の表現目的で本作が制作されたのではなく、おそらくはカードを積み上げ遊ぶ行為(またそうして遊ぶ子供の姿)そのものへの画家への興味が向いた為に(複数回)制作されたとも推測されている。本作の落ち着いた褐色的な色調は画家の(色彩描写的な)特徴が表れており、静謐感の漂う(本作の)雰囲気とよく馴染んでいる。当時の流行を加味した六角形のボタンが付けられる上着を上品に着こなし、頭髪を黒いリボンで結んだ上に三角帽子を被るこの少年(青年)の優美な姿は、画家の作品の中でも特に秀逸の出来栄えであり、今なお観る者を魅了する。また制作年代について一般的には1736-37年頃とされているが、ヴィルデンシュタインなど一部の研究者らは本作の制作年を(少し後となる)1741年頃と推定しており、更なる研究が期待されている。なお同主題を扱った他の作品ではワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する『カードのお城』が知られている。

関連:ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵 『カードのお城』

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学校の先生(女教師)

 (Maîtresse d' école) 1730-40年頃
61.5×66.5cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

ロココ様式時代に活躍した画家ジャン・シメオン・シャルダンを代表する作品のひとつ『学校の先生(女教師)』。本作はあたかも少女を思わせるような姿をした女教師が指し針を用いて、幼い生徒にアルファベットの書かれた教書で何かを教える姿を描いた作品である。背景を排した簡素な画面構成にすることよって観る者の視線を自然と対象の人物(女教師と生徒)へと向けさせる工夫がなされており、このアプローチ(とその成功)が示される最初の作品として本作はシャルダンの画業における特に重要な位置に付けられている。また幼い生徒の視線は、画面の中で女教師によって指し示される教書のアルファベット文字の一点を注視しているが、女教師の方は、教書というよりも、生徒の方へと視線を向けているように思われる。表現手法においても、穏やかでありながら明確に人物を照らす光の描写や、全体的に落ち着いた色彩の中で映える女教師の帽子の赤いリボンや青地の衣服、ごく日常的な雰囲気の表現など特筆すべき点は多い。本作の制作年代については、ヴィルデンシュタインによる1731-32年とする説、ロザンベールによる1736年とする説、デニス・サットンによる1739-40年とする説など諸説唱えられており、現在も議論が続いている。なお本作は画家の二人の子供(ピエール・ジャン、マルグリット・アニェス)か、画家の友人ル・ノワールの家族らモデルに描いたとする説も唱えられているが、憶測の域を超えない為、現在、この説を重視する研究者は少ない。

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若い素描家(素描の練習)

 (Jeune dessinateur) 1737年
80×65cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

ロココ美術の大画家ジャン・シメオン・シャルダンの代表的な単身人物画のひとつ『若い素描家(素描の練習)』。1737年のサロン出品作である本作に描かれるのは、年若き素描家が机に向かい素描用の筆記具を削る姿である。画家が風俗画制作で大きな影響を受けたオランダなど北方絵画の伝統的な画題でもある本画題≪若い素描家≫を描いた作品は2点存在し、パリのサロンへと出品された本作が最初のヴァージョンで、その後に制作されたもう1点の『若い素描家(素描の練習)』は現在、ベルリン国立美術館に所蔵されている。シャルダンの単身人物画の大きな特徴である静謐な雰囲気の中で、左手で持つ筆記具の柄の部分に視線を落とし、右手のナイフで丁寧に柄を削る素描家の初々しく誠実な表情は画家の手がけた人物画の中でも品と格調の高さを感じさせる。またこの素描家の柔らかい心情や感情表現、そして落ち着いた振る舞いも本作の大きな見所である。(対称的ではあるが)構図や画面展開、そして表現様式的には本作と同じ頃に制作された(本作同様、画家の代表作である)ロンドン・ナショナル・ギャラリーに所蔵される『カードのお城(トランプの城)』に類似しているものの、柔和な光の描写や調和的な色彩表現は特に優れた出来栄えを示しており、本作の中で最も色調の強い素描帳の薄い青緑色や、素描帳から垂れ下がる太紐の赤色は色彩的アクセントとしての効果を絶妙に発揮している。

関連:ベルリン国立美術館所蔵 『若い素描家(素描の練習)』

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羽根を持つ少女(羽子を持つ少女、ラケットを持つ少女)


(Petite fille jouant au volant (Fillette au volant)) 1737年
81×65cm | 油彩・画布 | 個人所蔵

ロココ美術の大画家ジャン・シメオン・シャルダンの代表作『羽根を持つ少女』。羽子を持つ少女、ラケットを持つ少女とも呼ばれる本作は、羽根を左手に、ラケットを右手に持つ少女を描いた作品で、画家が幾度も手がけ、複数のヴァリアントが知られている『カードのお城』と対画で制作された(本作の対画はワシントン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する『カードのお城』)。本作に描かれる少女のモデルは現在も不明であるが、硬直したかのような表情、微動だにしない少女の直立的な姿態には、あたかも単純化される造形の美しさを表現したかのように、画家の形状に対する明確な理念が表れている。特に円錐形の胴体と、円筒形の腕、球形の頭部と腰のスカートの明快な美的形状は本作で注目すべき点のひとつでもある。さらに少女のやや緊張している様子の愛くるしい表情や、背景に何も描かないことによる対象(少女)の集中的な描写や表現も大きな見所である。また本作に描かれる羽根とラケットは、それによっておこなわれる遊戯への≪移ろいゆく、つかの間の儚い快楽≫、遊戯には必要の無い腰に下げられる鋏と針刺は、先の≪儚い快楽≫に対する≪無用≫もしくは≪労働と義務≫と、本作には画家の寓意的な意図が込められているとの説も唱えられている。なお本作はかつてエカテリーナ二世が所有していたものの、現在ではフランスの個人が所有している。

関連:ワシントン・ナショナル・ギャラリー所蔵 『カードのお城』

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食前の祈り

 (Bénédicité) 1740年頃
49.5×39.5cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

18世紀ロココ様式時代のフランス絵画の巨匠ジャン・シメオン・シャルダン代表的な風俗画作品のひとつ『食前の祈り』。対の作品となる『働き者の母親』と共に1740年のサロンに出品され、同年ヴェルサイユ宮殿で当時のフランス国王ルイ15世に献上された本作は、17世紀フランドル絵画などで盛んに制作された民衆階級の健全な美徳を表す風俗的画題≪食前の祈り≫を描いた作品である。本作では食事の用意をする母親がその手を止め、朱色の帽子を被り小さな椅子に座る幼い娘に視線を向け、食前の祈りを捧げるよう食事前の態度を咎めている。そして二人の間(食卓の奥)では、おそらく幼い娘の姉であろう少女が母親同様、行儀良く振る舞いながら妹(幼い娘)の方を向き、彼女の祈りが終わるのを待っている。本作に描かれる何気ない日常風景の中に、当時のフランスの厳格な生活態度やその姿勢が示されている。また本作が描かれた1740年は凶作であったことが知られており、研究者からは、凶作の中でも食事を取れることや、生きることそのものに対する切実な感謝の念が込められているとの指摘もされている。画家が手がけた数多くの風俗的作品の中でも、とりわけ著名な作品である本作の柔和な光の加減や物静かで優しい空気感、落ち着いた清潔感を感じさせる色彩描写は特に秀逸の出来栄えであり、観る者を自然と絵画内の生活世界へと誘う。教訓的な画題を描きながらも、その中に絵画作品としての確固たる魅力が存分に表現されるシャルダンの風俗画作品は、現在、やや軽視傾向にあるロココ時代のフランス絵画の中でも、ヴァトーと並び一際高い評価を受けている。

関連:対画『働き者の母親』

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葡萄と石榴(ブドウとザクロ)

 (Raisins et granades) 1763年
47×57cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

18世紀ロココ様式時代における風俗画・静物画の巨匠ジャン・シメオン・シャルダン晩年期を代表する作品『葡萄と石榴(ブドウとザクロ)』。かつては、当時、最も権力を有していた大臣のひとりであるサン・フロランタン伯爵が所有していたと推測されている本作は、王立絵画・彫刻アカデミー後、風俗画を主体として絵画を制作していた画家が、再び静物画制作に取り組むようになった晩年期(1750年以降)に手がけられた作品のひとつである。寸法や表現手法がほぼ同一であることから、本作同様ルーヴル美術館に所蔵される『ブリオシュ』と対の作品であると考えられている本作では、画面中央に配される白い磁器の水差しを中心に、その前に黒葡萄と、そのすぐ奥に白葡萄がひと房ずつ、さらに両脇に白葡萄がふた房配され、画面右側には洋梨などの果実とナイフ、そして(葡萄から醸造される)ワインが入ったグラスが2脚、画面左側には柘榴がふたつ描かれており、手前の柘榴はその実が瑞々しく弾けている。画面中央の艶やかな光沢を帯びた水差しの白く輝くような質感や、正確に描写される熟し弾けた赤い柘榴の果肉や種の、静謐な雰囲気に命を宿す生命的効果と造形的な趣、画面右端のワイングラスの(柘榴とは対照的な)硬質性と繊細な光の反射の表現は、特に秀逸の出来栄えを示している(画家は本作と『ブリオシュ』を1763年のサロンへ出品したとも考えられている)。また水差しを頂点に静物全体で三角形が構成されているが、この堅牢(安定的)でありながら造形性と詩情性に優れた独特の静物表現は、後期印象派を代表する画家ポール・セザンヌを初めとした近・現代の画家らに多大な影響を与えたことが知られている。

関連:対画 ルーヴル美術館所蔵 『ブリオシュ(ブリオッシュ)』

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