Description of a work (作品の解説)
2008/12/04掲載
Work figure (作品図)
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野兎、獲物袋、火薬入れ(死んだ野兎と狩猟用引き具)


(Wild Rabbit with Game Bag and Powder Flask) 1729年頃
81×65cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

18世紀フランス絵画の巨匠ジャン・シメオン・シャルダン初期を代表する静物画のひとつ『野兎、獲物袋、火薬入れ(死んだ野兎と狩猟用引き具)』。おそらくはシャルダンが傑作『赤エイ(赤えいと猫と台所用具)』を王立絵画・彫刻アカデミーへ提出し正式な会員となって間もない頃(1729年頃)に制作されたと推測されている本作は狩猟での獲物となる野兎と、狩猟の際に使用した獲物袋(獲物入れ)、鉄砲へ用いる火薬入れを描いた静物画である。シャルダンは本作を始め『二匹の野兎、獲物袋、火薬入れ』、『野兎、獲物袋、火薬入れ、鷓鴣』、『野兎、獲物袋、火薬入れ、鶫と雲雀』など貴族の娯楽としての画題≪野兎と狩猟道具≫を、そして食用としての画題≪野兎と台所用具≫の静物画を数多く制作しており、この頃の画家にとって最も取り組んだ画題としても知られている(これは狩猟姿の男性の肖像画制作の為の一因とも考えられているほか、17世紀オランダ絵画の風俗的影響も指摘されている)。画面のほぼ中央へ配される狩猟によって仕留められた野兎は石壁へ脚先から吊るされ、その姿態や筋肉は弛緩し生の躍動を感じることができない。野兎の傍ら(画面左部分)には狩猟の際に用いたのであろう、使い込まれた獲物袋と火薬入れがやや無造作的に置かれており、観る者へこれらが使用されて間もないことを暗示している。本作の最も優れている点は画題(主題)となる野兎を静物として極めて自然的かつ日常的に捉え描いている点にある。通常、静物画として狩猟の獲物を配する際には、(見栄えを考慮する以上、絵画としては当然であるが)ある種のわざとらしさが感じられるものの、シャルダンは本作の制作においても、あたかも道具置き場に獲った獲物を無造作に吊るしたかの如く配置しており、その飾らない実直な対象表現であるからこそ、今も我々観る者の心を捉え続けるのである。なお本作は1852年よりルーヴル美術館の所蔵となり印象派の先駆的存在エドゥアール・マネを始めとした19世紀の画家たちに多大な影響を与えたことが知られている。

関連:1724-28年頃制作 『二匹の野兎、獲物袋、火薬入れ』
関連:1727-28年頃制作 『野兎、獲物袋、火薬入れ、鷓鴣』
関連:1730年頃制作 『野兎、獲物袋、火薬入れ、鶫と雲雀』


【全体図】
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仕留められた野兎。おそらくはシャルダンが王立絵画・彫刻アカデミーの正式な会員となって間もない頃(1729年頃)に制作されたと推測されている本作は、狩猟での獲物となる野兎と、狩猟の際に使用した獲物袋(獲物入れ)、鉄砲へ用いる火薬入れを描いた静物画である。



【仕留められた野兎】
力無く吊るされる野兎の脚。17世紀オランダ絵画の風俗的影響も指摘されている本作の画面のほぼ中央へ配される狩猟によって仕留められた野兎は石壁へ脚先から吊るされているが、その姿態や筋肉は弛緩し生の躍動を感じることができない。



【力無く吊るされる野兎の脚】
使用感漂う獲物袋と火薬入れ。シャルダンは本作の制作において、あたかも道具置き場に獲った獲物を無造作に吊るしたかの如く配置しており、その飾らない実直な対象表現・描写であるからこそ、今も我々観る者の心を捉え続けるのである。



【使用感漂う獲物袋と火薬入れ】

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