Introduction of an artist(アーティスト紹介)
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カナレット Canaletto
1697-1768 | イタリア | 18世紀景観画家




18世紀イタリアを代表する稀代の景観画家(風景画家)。再現性の高い圧倒的な写実性と輝きを帯びた繊細な色彩、絶妙に対比された明暗と光の描写、そして大気性を存分に感じさせる雄大で開放的な景観表現とそれを支える幾何学的な遠近法で当代随一(最高)の景観画家として君臨。傑出した出来栄えを示す景観図(ヴェドゥータ)作品と画家の名声はイタリアのみならず、英国を始めとした諸外国まで轟いていた。故郷ヴェネツィアやローマ、後年に滞在した英国の景観を描いた作品が良く知られているが、奇想画(カプリッチョ)と呼ばれる空想(想像)上で構成された都市景観図作品でも優れた作品を残している。本名はジョヴァンニ・アントニオ・カナル。1697年、劇場の舞台背景画家であった父ベルナルドの息子として生を受け、父の手伝いをおこないながら絵画を学び始める。1715年にローマへ移住し、同地で装飾画家として働きながらパンニーニ、ウィッテルなどの影響を受ける。1720年頃から景観図を手がけ始め、当初はカルレヴァーリスやM・リッチの影響を色濃く残しながら、英国の顧客向けに明暗対比の大きな作品を制作、次第に名声を高めてゆく。1730年代に入りカナレット独自の雄大な景観表現を確立、最高の景観画家としての地位を確固たるものとした。その後、英国有数の美術収集家ジョゼフ・スミス氏との交友を経て、1746年から約10年間ロンドンに滞在、同地の景観図を多数制作した。1756年、故郷ヴェネツィアへ帰郷。晩年期となる1763年にはヴェネツィア美術アカデミーの会員となった。1768年、同地で死去。カナレットはジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロと共にヴェネツィア絵画の栄華と栄光を欧州中へ知らしめた同時代のイタリアで傑出した存在の画家であり、英国ロマン主義を代表する画家ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの様式形成にも大きな影響を与えた。なお同時代を代表する景観画家ベルナルド・ベロットは画家の甥(かつ弟子)としても知られている。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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ヴェネツィア、サン・ヴィオ広場とカナル・グランデ(大運河、サン・ヴィオ広場より東を望む)

 (Der Canal Grande mit dem Campo san vio in Venedig) 1722-23年頃
65.5×97.5cm | 油彩・画布 | ドレスデン国立絵画館

18世紀イタリアで活躍した稀代の景観画家カナレット最初期の重要な作品のひとつ『ヴェネツィア、サン・ヴィオ広場とカナル・グランデ(大運河、サン・ヴィオ広場より東を望む)』。ザクセン選帝侯のコレクションのひとつとして北方へと渡った本作は、カナレットの故郷ヴェネツィアのカナル・グランデ(大運河)をサン・ヴィオ広場方面より東側へと向けられた視点で制作された、画家の画業における最初期に分類されるヴェドゥータ(景観図)作品のひとつである。画面手前右側にはパラツィオ・バルバリーゴへとつながるサン・ヴィオ広場と船着場が丹念な筆触によって配されているが、中でも特に注目すべき点は建物の壁に描き込まれた一隻の小船の絵である。カナレットは本作以外にもマドリッドのティッセン=ボルネミッサ・コレクション所蔵となる同主題の作品を始め、本景観を少なくとも12点制作していることが既に知られているが、本作以外に小船の絵の描写は認められない。この絵が商業組合的な意味合いを持つのか、それとも単なる落書きとして描き込まれたのかは未だに不明であるものの、他の作品との明確な差異である点においては特に重要視されている。また画面右側にはパラツィオ・コルネール・デラ・カ・グランデが悠々とした姿で配されており、特に影の落ちる側面部の巨大感と重厚感は観る者の眼を強く惹きつける。さらに画面左側奥には建物の間からサンタ・マリア・デラサルーテ聖堂の円蓋が覗いており、画面内へ形状的な変化を齎している。本作の細密的な各構成要素の描写や大気的な表現、内側へと自然に向けられるよう仕向けられた構図と構成などにはカナレットの典型を強く感じさせる。

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サン・ヴィダルの石工工房(石工の仕事場)


(Laboratorio dei marmi a San Vidal) 1727-30年頃
124×163cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イタリア最高の景観画家カナレット随一の代表作『サン・ヴィダルの石工工房(石工の仕事場)』。おそらく英国からの観光客のために数多く制作された景観図作品の中の1点である本作は、イタリア北東部に位置する欧州有数の共和国家であり、カナレットの故郷でもあるヴェネツィアのサン・ヴィダルの大理石細工所からサンタ・マリア・デラ・カリタ聖堂と同信会館へと向けた視点で制作されている。画面前景には無数の大理石が散乱する石工工房(大理石細工所)と、そこで労働に勤しむ石細工職人、そしてその家族らの日常的(風俗的)な光景が情感豊かに描かれている。一方、遠景として、現在、アカデミア美術館として使用されるなど同時代のヴェネツィアを代表する建築物でもある(※1741年に鐘楼が倒壊したことでも知られている)サンタ・マリア・デラ・カリタ聖堂と同信会館が運河を挟み画面奥へ描かれており、さらにその上空には開放感に溢れた空が荒涼と表現されている。本作に示される、1720年代後半のカナレットの特徴である(英国の顧客好みの)明暗対比の大きな光の描写や、まるで舞台の背景を思わせる壮大で雄弁的な眺望表現によって観る者を強く惹きつける(景観全体で醸し出された)迫真性は、他の作品には類が無いほど秀逸の出来栄えであり、細密に再現された極めて写実性の高い風景処理や、「都市の肖像画」とも称賛された匂いすらも感じさせる圧倒的な大気感の表現と共に、画家の最高傑作のひとつとして広く認知されている。

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キリスト昇天祭の日の御座舟の帰還

 1730-35年頃
(Ritorno del bucintoro al Molo nel giorno dell'Ascensione)
76.8×125.4cm | 油彩・画布 | ウィンザー城王室コレクション

18世紀欧州随一の景観画家カナレットの代表的な作例のひとつ『キリスト昇天祭の日の御座舟の帰還』。本作は画家の故郷ヴェネツィアの大運河の情景を描いた14点から構成される連作の中の1点で、ヴェネツィアで「海と結婚の日(センサの祭り)」とも呼称される≪キリスト昇天祭≫で最も感動的な場面のひとつである≪御座舟の帰還≫を描いた作品である。この「海と結婚の日」は997年にヴェネツィア共和国の基礎を築いたピエトロ・オルセオロ二世がイストリアとダルマツィアを獲得した記念として始められたとされ、有名なクライマックスの結婚の証として金の指輪を海に投げ入れるという行事は、1177年、神聖ローマ皇帝フリードリヒ一世との歴史的な調停に貢献したヴェネツィア共和国へ、アドリア海の覇権の象徴としてローマ教皇アレクサンデル三世が指輪を贈ったことに由来している。画面右側からは本祭事の主役となる総督(統領)が乗った豪華なブチントーロが登場しており、その周囲には複数のゴンドラが描かれている。画面手前の近景にはこの祭事の見物人などを乗せた小さな小船が狭い間隔で配されており、観る者も≪御座舟の帰還≫に参加しているかのような感覚を与える。また遠景となる街並みとしてヴェネツィアの象徴的存在であるサン・マルコ大聖堂と時計塔、そして図書館や造幣局などが細密な筆致で描き込まれている。カナレットは本場面≪御座舟の帰還≫を画題とした景観画(風景画)を生涯の中で数多く手がけているが、ヴェネツィア絵画の熱心な収集家のひとりであった英国のスミス領事が手に入れた本作は、その初期の代表的な作品として広く知られている。

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カナル・グランデのレガッタ(大運河でのレガッタ)


(Regata sul Canal Grande) 1730-35年
77×126cm | 油彩・画布 | ウィンザー城王室コレクション

18世紀の欧州において最も重要な景観画家(風景画家)のひとりであるカナレット随一の代表作『カナル・グランデのレガッタ(大運河でのレガッタ)』。本作は同時期に手がけられた『キリスト昇天祭の日の御座舟の帰還』同様、画家の故郷ヴェネツィアの大運河の情景を描いた14点から構成される連作の中の1点で、大運河でおこなわれる大規模なゴンドラの競漕の情景を描いた作品である。画面中景には、競漕をおこなうゴンドラが、画面前景にはそれを観戦するヴェネツィアの独自的なカーニバルの衣服を着た人々を乗せたゴンドラが配されている。画面左端にはマッキナと呼ばれる豪華に装飾された仮説の建物が描かれており、掛けられる大旗には当時の統領カルロ・ルッジーニの紋章まで明確に描き込まれている。さらに大運河を挟んで画面左右に描かれる建物のバルコニーには大勢の観客が描かれており、その圧倒的な写実的描写からは歓声まで聞こえてくるようである。本作の最も注目すべき点は、やはりこの並外れた写実性を感じさせる景観描写と大気的な表現にある。やや陰影を強めた光彩描写を用いて表現された競漕の情景は、まるで観る者が観衆と共に観戦しているかのような錯覚さえ受けるほどリアリティに溢れている。カナレットの優れている点は、このような非常に高度な技術を持っていても、単なる写実的描写に陥ることなくドラマチック性や叙情性をも兼ね備えた、景観画におけるひとつの頂点を感じさせる作品を制作している点にあり、それは今でも色褪せることなく人々を感動し続けているのである。

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サン・ロッコ聖堂とサン・ロッコ同信会館を訪れるヴェネツィア提督

(Corteo dogale alla chiesa di San Rocco)1735年頃
147×199cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イタリアのみならず、同時代の欧州を代表する景観画家カナレットの重要な作品『サン・ロッコ聖堂とサン・ロッコ同信会館を訪れるヴェネツィア提督』。本作はヴェネツィアのサン・ロッコ聖堂(本作中で画面最右に描かれる建物)で毎年8月16日におこなわれる聖クロスの祭典を終えた人々の情景を描いた作品である。聖クロスの祭典とは、14世紀後半にヴェネツィアで疫病が蔓延するものの、聖クロスの奇跡によって救われたとする逸話に由来する行事で、サン・ロッコ聖堂には聖クロスの遺体も保管されている。画面中央下部やや左側に金色の長衣と白貂の毛皮を身に着けたヴェネツィア提督が描かれ、その周囲にはサン・ロッコ同信会館総長(提督の右に配される黒衣の男)や書記官長(緋色の衣服を身に着けた男)、秘書官(藤色の衣服を纏った男)、元老院議員などが細密な描写で描き込まれている。彼らの手には花束が握られているが、これは花の香りが疫病から身を守ると信じられていたことに由来する。また画面正面のサン・ロッコ同信会館前の広場は花や絵画で装飾されているが、これらは絵画展示会場も兼ねていた(カナレット自身、この会場で絵画を販売していたことが記録に残されている)。本作の明瞭な光源処理による明暗を強調した情景表現や空気感を感じさせる大気的な風景描写、そして表情や姿態を容易に確認することができるほど丁寧に描き込まれた緻密な筆触などにはカナレットの表現様式が良く表れており、今も観る者を感動させる。

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サン・マルコのドック(東を望むサン・マルコ湾)


(Bacino di San Marco) 1738-40年頃
124.5×204.5cm | 油彩・画布 | ボストン美術館

稀代の景観画家カナレットが手がけた傑作中の傑作『サン・マルコのドック(東を望むサン・マルコ湾)』。おそらくは1738年頃から1740年頃にかけて制作されたと推測される本作は画家の故郷であるヴェネツィアのサン・マルコ湾の船渠(造船やその修理の為に建築された設備群)の光景を描いた作品であるが、驚くべきはその雄大な景観表現にある。近景として描かれるサン・マルコ湾には、そこを行き交う大小様々な帆船やヴェネツィア特有のゴンドラが情感豊かに配されており、水面には小さな白波が立っている。またヴェネツィアの街並みも画家の繊細で緻密な描写によって画面右側からサン・マルコ湾へ沿うように税関所や波止場(防波堤)、穀物倉、そして遠景にはカステッロ地区、6分の1街区、ジュッバ(ユダヤ人居住区)などを容易に確認できる。各構成要素は当時最も有力な顧客層のひとつであった英国貴族好みのやや明確な明暗対比によって表現されているものの、全体としては陽光の包み込むような光によって輝きに満ち溢れており、詩情的な情感を掻き立てる。さらに水平線を画面中央より低く設定し、広大な空を強調させることによって現実より空間が広がっているかのようなパノラマ的な眺望展開を画面の中で構築していることも特に注目すべき点のひとつである。

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ブレンタ運河沿いのドーロ村(ブレンタ川のドロ水門)


(Le chiuse di Dolo sul Brenta) 1720年代後半〜1742年
80×95.3cm | 油彩・画布 | シュトゥットガルト州立美術館

18世紀欧州における最高の景観画家のひとりカナレットによる風景画作品『ブレンタ運河沿いのドーロ村(ブレンタ川のドロ水門)』。本作はヴェネツィアからパドヴァへとブレンタ川沿いに進んだ先にある小村≪ドーロ村≫の景観を描いた作品である。カナレットは甥ベルナルド・ベロットと共に1740年代初頭にパドヴァへと絵画旅行へ出発していることが知られており、一般的には本作もその旅行時に制作された習作に基づき制作されたと推測されていたものの、近年では様式的特徴から1720年代末頃に制作された作品であるとする説へと傾倒しつつある(※確固たる証拠は残らないものの、おそらくカナレットは1720年代にも同地方へ赴いていたとも推測されている)。本作に描かれるドーロ村は当時からあまり有名ではなく、画題としても馴染みが薄いものであったが、本作に描かれる同村の景観は非常に魅力的な印象を観る者に与える。画面前景から中景にかけて右側には水門や艇庫が、中央には旅行者と思われる身なりの良い婦人たちらの一団と村民と思われる古着の人々や、旅行者が乗っていたと考えられる船が、右側には民家やサン・ロッコ聖堂の鐘楼などが配されている。遠景となる画面中段から上部にかけてはドーロ村の眺望と開放感に溢れる青空が広がっている。本作で最も注目すべき点は、やはり最も観る者の目を惹きつける画面手前の旅行者の一団であろう。色鮮やかで豪奢な衣服を身に着ける婦人たちは日傘に護られながらドーロ村の穏やかな情景を楽しんでいる。この一団と村民の質素な姿との対比は絵画的に大きな効果を生み出しており、観る者の視線を自然に誘導させることに成功している。なおこの両者の対比には社会主義的な思想は含まれないと考えられている。

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カプリッチョ:ピアツェッタに置かれたサン・マルコ大聖堂の青銅馬

 (Capriccio con i cavalli della Basilica di San Marco posti sulla Piazzetta) 1743年頃
108×129.5cm | 油彩・画布 | ウィンザー城王室コレクション

18世紀イタリア最高の景観画家カナレットを代表する奇想画作品のひとつ『カプリッチョ:ピアツェッタに置かれたサン・マルコ大聖堂の青銅馬』。『サン・マルコ小広場に並ぶ聖マルコの馬』『4頭のブロンズの馬のあるサン・マルコ小広場』とも呼ばれる本作は、1743年から翌44年にかけて領事スミス氏の依頼により制作された13点の景観画の1点である。本作はヴェネツィアの人々にとって最も重要なサン・マルコ大聖堂前の広場を舞台とした景観であるが、作品の名称ともなっている四頭のブロンズ(青銅)製の馬は、描かれた1740年代前半当時には同場所に存在せず、画家の想像(空想)によって構成された。この点がカプリッチョ(奇想画)と呼ばれる所以である(この青銅馬自体は存在しており、古代に制作されたと推測されているようその価値は非常に高く、彼のナポレオンがヴェネツィアを占領した際に持ち去ったという逸話も残されている※1815年にヴェネツィアへ返却された)。本作においては四頭の青銅馬はサン・マルコ小広場の前へ秩序正しく一列に並べられており、青銅馬に集まる周囲の人々の関心を誘っている。画面構成としては左から右へと視線を動かすにつれ遠方へと自然に向かうよう、奥行きを感じさせる遠近法が巧みに使用されており、さらにその終着地点から開放的な空へとつながる上方への視線誘導は見事の一言である。また本作の色彩表現に注目しても、青銅馬や建物に用いられる褐色的な色彩と、清々しい青空や風の流れを感じさせる流動的な雲の白色との色度的対比は優れた出来栄えを示している。

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リアルト橋の奇想

 1743-1744年頃
(Capriccio : a Palladian Design for Ponte di Rialto)
90.2×130.2cm | 油彩・画布 | 英国王室コレクション

18世紀イタリア随一の景観画家カナレットが手がけた奇想画の代表作『リアルト橋の奇想』。1743年から翌44年にかけてスミス領事の注文により制作された13点の景観画の1点である本作は、画家の故郷ヴェネツィアのカナル・グランデ(大水路)に架かる名高き橋≪リアルト橋≫を描いた作品であるが、本作に描かれるリアルト橋は現実のものではなく、建築家アンドレア・パラーディオによる「建築四書」の中の図面(リアルト橋の構想案)のひとつを、まるで現実に架けられているかのように配している。このような空想と想像によって現実を再構成した都市景観画は≪奇想画(カプリッチョ)≫として確立しており、当時から人気の高かった画題でもある。画面のほぼ中央に架けられる空想上のリアルト橋は、古代の神殿を思わせる10本の石柱と破風をモチーフを中心に、三つのアーチと数本の橋脚で構成されており(※現実のリアルト橋は橋脚が無く弓形である)、その堅牢で威風堂々たる姿は空想上の橋であっても観る者を強く惹きつける。さらに強い陽光によって白く輝く石肌の美しい輝きは、澄んだ上空の青々とした色彩と見事な対比を示しており、互いに引き立て合っている。またカナル・グランデの水上をゴンドラで進む人々や橋の上を行き交う民衆の、のどかで風俗的な様子は、この古代的な雰囲気と溶け合っており、観る者に強い現実感を抱かせる。

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リッチモンド・ハウスから望むホワイトホールとプライヴィ・ガーデン

 (Whitehall e il Privy Garden, da Richmond House)
1746年 | 109×119.5cm | 油彩・画布
グッドウッド・ハウス(リッチモンド=ゴードン公コレクション)

18世紀ヴェネツィア最大の景観画家カナレットがロンドン滞在時手がけた傑作『リッチモンド・ハウスから望むホワイトホールとプライヴィ・ガーデン』。本作はカナレットが英国有数の美術収集家ジョゼフ・スミス氏との交友を経て、1746約10年間ロンドンに滞在していた時に制作された作品の中の1点で、おそらくは画題ともなっているリッチモンド公爵のために制作された景観図である。対の作品として『リッチモンド・ハウスから望むロンドン市街とテムズ川』もほぼ同時期に制作されている本作では画面中央よりやや左部分にバンケティング・ハウスや(その奥へ尖塔が確認できる)線と・マーティン=イン=ザ=フィールズ聖堂が配されている。題名ともなっているホワイトホールは比較的小規模の建築物に囲まれた空間として描かれ、近景(画面下部左側)に広がるプライヴィ・ガーデンにはリッチモンド公爵の姿も従者たちと共に繊細な筆使いで描き込まれいる。本作で最も注目すべき点は秩序的構築に基づいた画面構成と、やや高い視点による遠近的表現にある。バンケティング・ハウスを中心に中景の建物はほぼ水平に配され、それより手前(前景)に描かれるプライヴィ・ガーデンの小道や庭園はテューダ王家のトレジャリー・ゲートへと向かうように配されている。この遠近的効果は広々とした空間構成も手伝い、観る者へ心地良い印象を与えることに成功している。さらに遠景の丹念に描写された街並みと画面の上半分を用いた青々とした空は圧倒的な眺望感と開放感を画面の中へ生み出しており、今も観る者を魅了し続けている。

関連:『リッチモンド・ハウスから望むロンドン市街とテムズ川』

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ロンドン:ノーサンバーランド邸


(London : Northumberland House)
1752年 | 120.7×182.9cm | 油彩・画布
ノーサンバーランド公爵コレクション

18世紀最大の景観画家カナレット、ロンドン滞在期の代表作『ロンドン:ノーサンバーランド邸』。カナレットが英国有数の美術収集家ジョゼフ・スミス氏との交友により1746年から滞在したロンドンで手がけられた本作は、ロンドンのほぼ中心シティ・オブ・ウェストミンスターの一地区であるチャリング・クロスに建設されたノーサンバーランド公爵の邸宅≪ノーサンバーランド邸(ノーサンバーランド・ハウス)≫を描いた作品で、注文主はもちろん画題の所有者となるノーサンバーランド公爵である。画面中央から右側へは朝日によって序々に輝きを帯びてゆくノーサンバーランド邸が見事な細密的描写で丹念に描き込まれており、特に中央玄関の上に配される獅子(ライオン)の像はノーサンバーランド公爵の家柄と権力を象徴するかのように勇壮な雰囲気を醸し出している(※なおこの獅子の像はアイルワースのシオンハウスに移築され、今も現存している)。そして画面右側へは前世紀の彫刻家ユベール・ル・スール(1595-1650年頃)が手がけたピューリタン革命(清教徒革命)でも知られるチャールズ1世の騎馬像が描かれている(このチャールズ1世像もホワイトホールのトラファルガー広場入口に現存している)。これらの注文主の意中の沿った画題の見事な描写も重要すべき点であるものの、本作で最も注目すべき点は、活気に満ちる直前となる風景全体の記録的価値にある。画面下部に描かれる広場の中へは、制服を身に着けた衛兵や荷車で物を運ぶ市民、夜明かし後の散歩を楽しむ貴族の男女など日常的な光景が入念に描写されており、当時の様子が今でもありありと伝わってくる。なお本作は完成後、多数の模写や版画が制作されており、これらによって同国の画家は多大な影響を受けたことが知られている。

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ロンドン:ラネラーのトロンダの内部


(Interbi della Rotonda di Ranelagh) 1754年
46×75.5cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イタリアを代表する景観画家カナレット、英国滞在期の著名な傑作『ロンドン:ラネラーのトロンダの内部(ラニラのトロンダ内部)』。本作はカナレットの重要な顧客(パトロン)であったトーマス・ホリスの依頼により制作されたロンドンの景観図6点の中の1作で、当時、最も賑わっていた行楽庭園のひとつである≪ラネラー・ガーデン≫内へ建てられていたトロンダと呼ばれる円形建造物の舞台・社交施設の内部が画題とされている(※余談ではあるが、本作が描かれた10年後に同時代の天才音楽家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトがこの施設で演奏をおこなったことも知られてる)。画面中央の大支柱を中心に、円状に形成されるトロンダの内部では、当時の最新の流行を取り入れた衣服で着飾った人々が優雅に会話や音楽を楽しんでいる。画面右側に配される音楽演奏者用の席では、今まさに演奏がおこなわれている様子である。本作の裏面にはカナレットの直筆で次の言葉が記されている。「1754年、ロンドンにて。敬愛なる我が主トーマス・ホリスの希望により、最大限の業を尽くし、最初にして最後となる本景観を描く。アントニオ・デル・カナル。通称カナレット」。この文章自体はおそらく依頼主であるトーマス・ホリスが、カナレットの制作を証明するために記させたものであると推測されているものの、精緻で丹念な描写を用いた写実的表現や、内向的光彩を感じさせる明暗対比、観る者の興味心を擽る構図・構成は今も色褪せることなく、人々に強い感動を与え続ける。なお別の視点から描かれる同画題の作品『ロンドン:ラネラーのトロンダの内部(別ヴァージョン)』が複数知られている。

関連:別ヴァージョン 『ロンドン:ラネラーのトロンダの内部』


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サン・ピエトロの宵祭り(ヴィジリア・ディ・サン・ピエトロ)


(Night Festival at St.Pietro di Castello) 1755-56年頃
119×187cm | 油彩・画布 | ベルリン国立美術館

稀代の景観画家カナレット晩年期の傑作『サン・ピエトロの宵祭り(ヴィジリア・ディ・サン・ピエトロ)』。本作はカナレットが10年間にも及ぶ英国滞在を終え、故郷ヴェネツィアに帰郷した1756年頃に、貿易商ジギスムント・シュトライトの依頼によって制作された4点の作品の中の1点で、聖ペテロ、聖パウロの祝日である6月28日に開催される宵祭りの情景が描かれる夜景景観画である。画面前景にはヴェネツィア独特のゴンドラに乗りながら宵祭りを楽しむ貴族や民衆たちが情緒豊かに配されており、中景にはヴェネツィア共和国の総大司教も居住していたサン・ピエトロ・ディ・カステッロ聖堂が緻密な筆触によって丹念に描き込まれている。画面全体は夜の闇に包まれるものの、画面右上に配された皓々と輝く月の鮮明な光によって叙情性の高い明暗対比を示している。(本作の)写実性が際立つカナレットの高い描写技量や綿密に計算された構図・構成も特筆に値する出来栄えであるが、やはり本作においてはこの月光によるロマンチシズム的印象が漂う夜景の表現にある。遠方へと配される月が放つ光は本作の構成要素を逆光的に背後から照らし、闇の中へ溶け合わせるかのように柔らかく調和させている。さらに蒼白く輝く月の繊細な色彩と建物の赤褐色の対比は、色彩の印象を観る者へより強く植え付けることに成功している。

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南西の角から大聖堂を望むサン・マルコ広場


(Piazza San Marco, verso la Basilica, dall'angolo) 1756年頃
45×35cm | 油彩・画布 | ロンドン・ナショナル・ギャラリー

18世紀イタリアを代表する景観画家カナレット晩年期の重要な作品『南西の角から大聖堂を望むサン・マルコ広場』。本作はカナレットが10年にも及んだ英国滞在から故郷ヴェネツィアへ帰郷後に制作された作品の中の1点で、サン・マルコ広間の南西の角となる新行政府庁舎の歩廊からサン・マルコ大聖堂側(東側)を眺める視線で制作されているのが大きな特徴である。対の作品として(サン・マルコ広間の)北西側から大聖堂を眺めた『北西の角から大聖堂を望むサン・マルコ広場』も制作されている本作では、画面最前景には新行政府庁舎の歩廊で会話を交わす身なりの良い3人の男が配されており、その内、立っている男性はコーヒーカップを持っている。サン・マルコ広場には当時、人々の社交場として機能していた、カフェ・ラテ発祥の地としても名高い1720年創業のカフェ・フロリアンが営業(現在も営業している)しており、そこへ立ち寄ってきたことが安易に連想することができる。中景から遠景にかけては画面左側へはサン・マルコ広場と大聖堂が、右側には長く続く歩廊が綿密な筆捌きで描き込まれており、当時のヴェネツィアの様子がありありと伝わってくる。本作で最も注目すべき点は歩廊の支柱によって左右へ分断された非常に大胆な構図にある。広場側(画面左側)の空間は開放感と明瞭的色彩を、歩廊側(画面右側)は閉塞感と強い明暗対比を生み出しており、この明確なコントラストによって観る者に鮮明な印象を与えることに成功しているだけではなく、構造的理解の説明的な側面としても機能している。

対画:『北西の角から大聖堂を望むサン・マルコ広場』

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