Introduction of an artist(アーティスト紹介)
画家人物像
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ティントレット Tintoretto
1518-1595 | イタリア | 盛期ルネサンス ヴェネツィア派




ヴェロネーゼと並び16世紀ヴェネツィア派を代表する画家。本名ヤコポ・ロブスティ(Jacopo Robusti)だが、父親が染物師【tintore】だったことからティントレットの呼び名で知られるようになる。作風はすでにヴェネツィア派の巨匠であったティツィアーノミケランジェロからの影響を受けながら形成されていったと考えられている。多少引き伸ばされた人体のプロポーションや、躍動感に富んだ捩れる姿勢、極端に表される短縮法、強い明暗対比などマニエリスムやバロック的な表現を用いることで、ドラマティックな画面構成の作品を創造した。ティントレットは生涯の殆どをヴェネツィアの街で過ごし、同街のために創作活動をおこなった。世界最大級の絵画作品となる『天国(700×2000cm)』を始め、その作品の多くは稀にみる大きさが際立っている。

Description of a work (作品の解説)
Work figure (作品図)
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奴隷の奇蹟

 (Miracolo dello schiavo) 1548年頃
415×541cm | 油彩・画布 | アカデミア美術館(ヴェネツィア)

ティントテットの全作品中、最も世に知られている作品のひとつであり、盛期ルネサンスヴェネツィア派絵画を代表する傑作『奴隷の奇蹟』。ヴェネツィアのサン・ロッコ同信会館の装飾画として制作された本作の主題は、キリスト十二使徒の聖ペトロの弟子として布教に同道した福音書記者のひとりで、ヴェネツィアの守護聖人でもある≪聖マルコ≫の奇蹟を描いたものであるが、特筆すべきはその表現にある。ヴェネツィア画壇の重鎮ティツィアーノにも相当の衝撃を与えた本作の、誇張された短縮法を用いて描かれた劇的な場面展開や、ヴェネツィア派の大きな特徴である豊かな色彩を使用した表現手法に加え、徹底された写実性で描かれる非現実的な奇蹟の場面は、当時、賞賛と批難の激しい論争を起こした。

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スザンナと長老たち

 (Susanna e i vecchioni) 1550年頃
167×238cm | 油彩・画布 | ルーヴル美術館(パリ)

ヴェロネーゼと並びティツィアーノ後の16世紀ヴェネツィア派を牽引した大画家ティントレットの代表作『スザンナと長老たち』。本作の主題は、旧約聖書≪ダニエル記≫へ補遺的に記される逸話で、裕福なユダヤ人ヨヤキムの妻スザンナの水浴を2人の長老達が覗き見し、スザンナへ「我々と関係しなければ、お前が若い男と姦通していると通報する」と、脅迫し姦淫の要求をするも、スザンナに拒否される。それに腹を立て、脅迫どおりスザンナを姦通を犯した罪で死罪にするよう告発するも、少年であったダニエルが2人の長老達の告発に疑いを持ち、スザンナが何処で罪を犯したか2人へ別々に話を聞くと、一方は乳香樹の下で、もう一方は柏の木の下で、と別々の場所を答えたことから2人の長老達の虚偽を暴き、スザンナの無実を証明する≪スザンナと長老たち≫で、本主題は当時ヴェネツィアで人気の高く、ティントレットも本作以外に同主題で複数枚、作品を手がけている。ミケランジェロに倣う妻スザンナの量感溢れる肉体的美しさと、その中に品格を感じさせる人体の表現力はティントレットの最も大きな魅力であり、本作においても如何なく発揮されている。

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キリストの神殿奉献

 (Presentazione di Gesu al tempio)
1554年頃 | 239×298cm | 油彩・画布 | アカデミア美術館

ヴェネツィアのサンタ・マリア・ディ・クロチフェリ聖堂の祭壇画として描かれた『キリストの神殿奉献』。円熟味を帯びていった画家の作風がよく表れている作品としても知られる本作の主題は、聖母マリアと夫ヨセフに連れられ、エルサレムの神殿で身を清める儀式をおこなうキリストを描く≪キリストの神殿奉献≫。作品からは、引き伸ばされた人物像や劇的な場面描写など、繊細かつ大段な表現で描かれているのがわかる。身を清めるために、エルサレムの神殿で老シメオンにその御身を渡される幼子キリストなどに示されるよう、この頃から画家が描く人物はヴェネツィア派らしく鮮やかに着色されながらも、人体プロポーションはマニエリスム的な長身化をしていった(老シメオンは救世主(キリスト)と出会うまで、その身が死することは無いと聖告を受けていたとされ、後に司祭長と同一視されるようになった)。また聖母の背後には同じく幼子の姿で描かれる洗礼者聖ヨハネと、幼児洗礼者聖ヨハネを抱き、この場面を見守るマグダラのマリアの姿が描かれている。

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聖マルコの遺骸を焼却から救うアレクサンドリアの信者


((I cristiani di Alesandria che trafugano il corpo di san Marco dal rogo))
1562-1564年頃
398×315cm | 油彩・画布 | アカデミア美術館(ヴェネツィア)

グランデ・ディ・サン・マルコ同信会館のために描かれた連作画≪聖マルコ伝≫より代表的な作品『聖マルコの遺骸を焼却から救うアレクサンドリアの信者』。同信会の守護聖人である聖マルコにまつわる物語を描いた本作は、巧みな遠近法でダイナミックな構図を用い、臨場感と緊迫感に富んだ場面を明暗対比の激しい人物によってトラマティックに表現されている。ティントレットの長い画業の中で、精力的に活動していた中期頃に制作された本作は、完成と同時に画家の代表作となった。苦悶の末に朽ち果てていった聖マルコの壮絶な死を、画家は生々しい中にも、ある種の神々しさが残る独自の描写表現で描き出した本作の左人物の後ろには聖マルコを焼却するために使用されていた薪木が山済みになっており、場面の緊張感を盛り上げる効果を出している。

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ピラトの前のキリスト

 (Cristo davanti a Pilato) 1565-67年
515×380cm | 油彩・画布 | サン・ロッコ同信会館

ヴェネツィアのサン・ロッコ同信会館聖堂内の壁画装飾として制作されたティントレットの画業における最高傑作のひとつ『ピラトの前のキリスト』。この名実ともに画家の代表作群となったサン・ロッコ同信会館聖堂内の壁画装飾の中でも、『キリストの磔刑』と同じく白眉の出来栄えを見せる本作は、キリストの受難伝からユダヤの民を惑わしたとして捕らえられたイエスに極刑をとユダヤの大司祭カイアファが民衆と共に総督ピラトに詰め寄り、過越祭としてイエスか殺人罪の死刑囚バラバのどちらかを放免すると民衆に問い、民衆が放免者にバラバを選んだことに対して総督ピラト自らがこの判決に何も関係が無いことを自身の手を洗い示す場面≪手を洗うピラト(ピラトの審問)≫を主題に描かれたもので、ドイツ・ルネサンスの巨匠デューラーの木版画『小受難よりピラトの前のキリスト』に着想を得ていることが知られている。受難者イエスの儚げに輝く後光や、それとは対照的に豪華な大理石を使用した総督ピラトの住む神殿、群れをなして詰め寄る民衆の熱狂的な表現などには、ティントレットの極めて大胆に洗練された独自の様式がよく示されている。

関連:デューラー作『ピラトの前のキリスト(小受難より)』

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キリストの磔刑

 (Crocifissione) 1565-1567年頃
536×1224cm | 油彩・画布 | サン・ロッコ同信会館

1564年から晩年期の1587年までの23年間に、数回に分けられおこなわれたサン・ロッコ同信会館聖堂内および建物の連作装飾画で、ティントレット最高傑作のひとつとなった、この『キリストの磔刑』。主題は十字架に磔られるキリストを描く≪キリストの磔刑≫で、巨大な画面(536×1224cm)の中に繰り広げられる人々のドラマティック描いた本作は、後世の画家たちに多大な影響を与えることになった。マタイ福音書とは、新約聖書の冒頭に収められる四福音書の一を指し、一世紀末頃シリア地方でユダヤ人キリスト教徒に向けて書かれたと推測され、キリストの生涯を旧約預言の成就と見、律法学者やパリサイ人の「義」にまさる「義」を説くメシアとしてのキリストの姿が記されている。≪キリストの磔刑≫が主題の場合、キリストと聖母マリア、聖ヨハネ、マグダラのマリアのほかにも、主イエスと共に磔刑に処された盗人やローマ兵士なども描かれる。本作の聖母と聖母の母アンナ、その上部に描かれるマグダラのマリアの悲観の感情が、画面中に溢れる緊張感の中に、さらなる絶望感を示している。

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青銅の蛇

 (Serpente di bronzo) 1565-67年
840×520cm | 油彩・画布 | サン・ロッコ同信会館

16世紀イタリアで活躍したヴェネツィア派の巨匠ティントレットの代表作『青銅の蛇』。ヴェネツィアのサン・ロッコ同信会館大広間の天井へ旧約聖書の諸場面のひとつとして描かれた本作は、旧約聖書民数記21章に記される≪青銅の蛇≫を主題とした作品である。本作の主題≪青銅の蛇≫は、イスラエルの民がモーセに導かれ約束の地カナンを目指す途中、旅の厳しさによって不平が募り父なる神を冒涜するような言動が発せられるようになったことが原因で、父なる神より天上から炎の毒蛇が放たれ多くの民が死の罰を受けることとなったが、悔悛した民がモーセに毒蛇を取り去るよう神に祈りを捧げるよう願うと、モーセが父なる神より授かった言葉「蛇の像を造り、旗竿の先に掲げよ。毒蛇に噛まれても、それを見上げれば傷を癒えよう。」と伝え、青銅の蛇を造り旗竿の先に掲げた逸話で、本作中では画面最上部へ天上から炎の毒蛇を放つ父なる神、画面中間へ青銅の蛇の付いた旗竿を仰ぎ見るよう指示するモーセ、そして画面中部から下部にかけて毒蛇に咬まれながら必死に青銅の蛇を仰ぎ見るイスラエルの民が配されている。本作で特に注目すべき点は、高度な短縮法や遠近描写、明瞭な光と深い陰影による強い明暗対比などによる運動性の際立つ躍動的で劇的な場面表現にある。また父なる神部分、指示するモーセ部分、苦しむイスラエルの民部分がそれぞれ大きな三角形(※加えてイスラエルの民は対角的な斜十字によって小さな三角形が構成されている)に、さらに正しき父なる神とモーセ部分は逆向きの三角形を形成させることで、非行であったイスラエルの民部分との効果的な対比をおこなっている点も特筆に値する。なおティントレットはサン・ロッコ同信会館の装飾画を「聖クロスへの敬意と同信会(スクオーラ)への愛情を示す」という理由で大部分を無報酬で手がけたと伝えられている。

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胸を露わにする女性の肖像


(Presentazione di Gesu al tempio) 1570年頃
61×55cm | 油彩・画布 | プラド美術館(マドリッド)

ヴェネツィア派の巨匠であると同時に、同じくヴェネツィア派最盛を誇ったティツィアーノをも凌ぐ、16世紀最大の肖像画家としての顔を持つティントテットが手がけた代表的な肖像画『胸を露わにする女性の肖像』。プラド美術館が所蔵する本作は、女性の柔らかな光を放つ肌の質感や色彩の豊かさも特筆に値するが、何と云っても肖像画の中に甘美性を持たせつつ、モデルの凛とした表情の美しさが際立っている。高貴で端正な顔立ちはもちろん、多少誇張されつつも女性特有の強い意思を秘めたこの女性の肖像画は、人間を賛美し、再発見したルネサンス芸術の真髄とも呼べる美しさに溢れている。また白色肌によく合った透き通る美しさを放つ真珠の首飾りなどから、当時最高級とされていた透ける素材を使用した服装からも、この女性が特別な存在であることがわかる。

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羊飼いの礼拝

 (Adorazione dei pastori) 1578-1581年頃
542×455cm | 油彩・画布 | サン・ロッコ同信会館

ヴェネツィア派を代表する巨匠ティントテットがサン・ロッコ同信会館のために手がけた装飾画の代表的な作例のひとつ『羊飼いの礼拝』。同信会館大広間の壁面の一部として描かれる本作の主題は神の子イエスが降誕した夜、ベツレヘム郊外の貧しい羊飼いのところへ大天使が降り救世主が生まれたことを告げられた後、急いでベツレヘムに向かい厩の飼葉桶に眠る降誕して間もない聖子イエスを礼拝するキリスト教美術において代表的な図像のひとつ≪羊飼いの礼拝≫で、強烈な光彩によって照らされる登場人物の劇的でダイナミックな運動性が大きな特徴のひとつである。本作の上右部では降誕したばかりの幼子イエスが聖母マリアに寄り添われながら眩い光を放ち、その傍らでは聖母マリアの夫であり神の子イエスの義父であるヨセフが二人を見守っている。一方、上左部と下左部ではこの聖なる家族の世話をしている羊飼いの一行と従者の様子が画家の様式となる強い明暗対比を用いた表現によってダイナミックに展開している。このようなマニエリスムを感じさせる表現手法は後の画家に多大な影響を与えただけではなく、当時、最も隆盛を誇っていたヴェネツィア派内においても最も注目すべき表現のひとつとして重要視されている。

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最後の晩餐


(Ultima Cena) 1592-1594年 | 365×568cm
油彩・画布 | サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂

ヴェネツィア派の画家ティントレット晩年期の傑作、サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂内陣のために描かれた『最後の晩餐』。主題は幾多の画家が描いてきた、キリストが十二弟子と共におこなった最後の食事の場面を描く≪最後の晩餐≫。また教会でおこなわれる聖餐式はこれに由来している。本場面≪最後の晩餐≫で、最も強調され描かれるのがユダの裏切りを指摘しているキリストの姿である。真正面から描かれることが通例であったこの場面を、ティントレットは斜め上方向から描くことによって、場面全体の緊迫した臨場感を表現した。また場面を劇的に盛り上げる効果を出しているのが、この画面左上に描かれた光彩を成す灯火で、この灯火より右にユダの裏切りを指摘する迫真の瞬間を、天上から見つめる天使の姿が見える。

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