Description of a work (作品の解説)
2009/12/13掲載
Work figure (作品図)
■ 

平和−水葬

 (Peace - Burial at Sea) 1842年頃
87×86.5cm | 油彩・画布 | テート・ギャラリー(ロンドン)

英国ロマン主義の巨匠ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの代表作『平和−水葬』。対画となる『戦争−流刑者とあお貝』と共に1842年のロイヤル・アカデミーで発表された本作は、ターナーのかつての好敵手であり、数少ない良き友人のひとりでもあった画家サー・デイヴィッド・ウィルキーが1841年に汽船オリエンタル号の船旅の途中に起こった海上事故で没し、ジブラルタル沖合へ水葬されたことに対する追悼的作品で、同じくウィルキーの友人であった画家仲間のジョージ・ジョーンズが船上の情景を素描し、その素描に基づいてターナーが本作を仕上げたことが伝えられている。画面中央へ配される汽船は立ち上る黒煙と共に深い影が落ち、それは帆先部分まで黒色で支配されている。そして汽船を分断するかのように一本の光の筋が縦に入れられ、観る者の視線を強く惹きつける。さらに画面上部ではやや白濁した空が広がり、また画面下部では汽船を反射し黒ずむ水面が描き込まれている。画面中に跡からもよく分かるよう、元々八角形の画面で展示・公開されていた本作で最も注目すべき点は、晩年期のターナーの特徴である黒色の使用にある。本作の対画であるナポレオンの晩年を描いた『戦争−流刑者とあお貝』に用いられる燃えるような赤色や黄色の色彩と対照的に、本作では青色を始めとした寒色が主色として使用されている。この色彩使用は画家も読んでいた、偉大なるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの≪色彩論≫に記される「青色・青緑色・紫色は落ち着き無く、過敏で不安な色彩」の具現的描写であると考えられている。また当時としては「不自然な暗さ」と批判も大きかった汽船部分に用いられる黒色は画家の死に対する不安感や悲劇的心象の現れとも捉えることができる。なお本作がロイヤル・アカデミーで発表された際のカタログには「真夜中の光が蒸気船の舷側に輝き、画家の遺体は潮の流れに委ねられた−希望の挫折」と詩句が共に掲載された。

対画:『戦争−流刑者とあお貝』


【全体図】
拡大表示
黒色で表現される汽船とそこに差し込む光。本作は、ターナーのかつての好敵手であり、数少ない良き友人のひとりでもあった画家サー・デイヴィッド・ウィルキーが1841年に汽船オリエンタル号の船旅の途中に起こった海上事故で没し、ジブラルタル沖合へ水葬されたことに対する追悼的作品である。



【黒色で表現される汽船と差し込む光】
黒ずんだ海面上を飛ぶ水鳥。同じくウィルキーの友人であった画家仲間のジョージ・ジョーンズが船上の情景を素描し、その素描に基づいてターナーが本作を仕上げたことが伝えられている本作の、当時としては「不自然な暗さ」と批判も大きかった汽船部分に用いられる黒色は画家の死に対する不安感や悲劇的心象の現れとも捉えることができる。



【黒ずんだ海面上を飛ぶ水鳥】
空に用いられる白濁した青色。本作の対画である『戦争−流刑者とあお貝』に用いられる燃えるような赤色や黄色の色彩と対照的に、本作では青色を始めとした寒色が主色として使用されている。この色彩使用は画家も読んでいたゲーテの≪色彩論≫に記される「青色・青緑色・紫色は落ち着き無く、過敏で不安な色彩」の具現的描写であると考えられている。



【空に用いられる白濁した青色】

Salvastyle.com 自己紹介 サイトマップ リンク メール
About us Site map Links Contact us

homeInformationCollectionDataCommunication
Collectionコレクション
作品イメージ