Description of a work (作品の解説)
2009/07/28掲載
Work figure (作品図)
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聖セバスティアヌス(矢を射かけられる)


(Saint Sébastien) 1875年頃
108×138cm | 油彩・画布 | ギュスターヴ・モロー美術館

19世紀のフランス象徴主義における孤高の画家ギュスターヴ・モローを代表する宗教画作品のひとつ『聖セバスティアヌス(矢を射かけられる)』。おそらくは1875年頃に制作されたと考えられる本作は、ガリア(ローマの属州)出身のローマ兵士で、当時のローマ皇帝ディオクレティアヌスに仕えながらもキリスト教へと改宗し、迫害を受けていたキリスト教徒たちを助けるものの、己がキリスト教徒であることが発覚してしまい皇帝から死刑を宣告された≪聖セバスティアヌス≫を主題に制作された作品で、画家は本作以外にも習作・水彩・油彩などで同主題の作品を数多く手がけている。本作に描かれるのは、聖セバスティアヌスが皇帝から死刑を宣告され矢で射られるという場面であるが、刑の執行後、聖セバスティアヌスは瀕死の状態に陥るものの、聖女イレネの看病によって奇跡的に一命を取り留めたとされている。画面左側に配される聖セバスティアヌスは木の傍に立ち無数の矢に射られながらも右手に持った十字架を高らかと掲げ、主イエスの正当性を主張している。この姿態は1865年に制作されたモロー初期の代表作『イアソン』の姿態を踏襲しており、この刑に対する勝利の意図を含ませている。画面右側には騎乗するローマ兵士らを主に無数の人々が丹念な筆遣いで描き込まれている。これら幻想性と象徴性が漂うモロー独特の表現も秀逸の出来栄えを示しているが、本作で最も注目すべき点は時代考証・史実考証を逸脱させた空想的場面構成にある。伝統的に聖セバスティアヌスが刑を執行されたのはパラティヌスの丘とされていたものの、本作に描かれる建物や風景は古代ローマ遺跡を容易に連想させる。この複数の場所や時代を合成し新たな世界観を構築する術は、画家自身も「想像力を満足させるため、天才ニコラ・プッサンは全く対立する両極端の文明を融合させることに成功した。」と残しているよう、フランス古典主義の巨匠ニコラ・プッサンの影響を強く感じさせる。

関連:1869年 『聖セバスティアヌス』
関連:1876年頃 『聖セバスティアヌスと天使』
関連:1876年頃 『殉教者に叙せられる聖セバスティアヌス』


【全体図】
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十字架を掲げる聖セバスティアヌス。画面左側に配される聖セバスティアヌスは矢に射られながらも右手に持った十字架を高らかと掲げ、主イエスの正当性を主張している。この姿態は1865年に制作されたモロー初期の代表作『イアソン』の姿態を踏襲しており、この刑に対する勝利の意図を含ませている。



【十字架を掲げる聖セバスティアヌス】
処刑場に集うローマ兵士たち。本作は、ガリア(ローマの属州)出身のローマ兵士で、己がキリスト教徒であることが発覚してしまい皇帝から死刑を宣告された≪聖セバスティアヌス≫を主題に制作された作品で、画家は本作以外にも習作・水彩・油彩などで同主題の作品を数多く手がけている。



【処刑場に集うローマ兵士たち】
時代考証・史実考証を逸脱させた空想的場面構成。本作に描かれる建物や風景は古代ローマ遺跡を容易に連想させる。この複数の場所や時代を合成し新たな世界観を構築する術はフランス古典主義の巨匠ニコラ・プッサンの影響を強く感じさせる。



【空想的場面構成】

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