Description of a work (作品の解説)
2010/01/26掲載
Work figure (作品図)
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ドーソンヴィル伯爵夫人の肖像


(Comtesse d'Haussonville) 1845年
131.8×92cm | 油彩・画布 | フリック・コレクション

19世紀フランス新古典主義最後の巨匠ジャン=オーギュスト・ドミニク・アングルを代表する肖像画作品のひとつ『ドーソンヴィル伯爵夫人の肖像』。アングルが2度目のイタリア滞在から帰国し、人々からフランス画壇の最高権威者のひとりとして熱狂的に迎えられて間もない1845年に制作された本作は、アカデミー会員としてもよく知られた名門貴族ドーソンヴィル伯爵の夫人であり、ブロリ公女の義姉妹でもある社交界の花形≪ルイーズ・ド・ブロリ≫をモデルに制作された肖像画作品である。画面中央へ配されるドーソンヴィル伯爵夫人は大きな鏡台へ凭れ掛かるように立ちながら視線を観る者へと向けており、右手は胴から下腹部を押さえるような、左手は顎のあたりに軽く添えるような姿態を見せている。この独特な左手の仕草は、2度のイタリア滞在中で熱心に研究していた古代ローマの彫刻に倣った≪瞑想≫を意味するものであり、ドーソンヴィル伯爵夫人の知性と教養の高さを示している。また伯爵夫人が身に着ける衣服は艶やかな光沢を帯び一見して品質と(夫人の)地位の高さを理解することができる。そして伯爵夫人の背後の鏡台には彼女の後頭部が映っており人間としての2面性を暗喩させている。極めて高度で卓越した技術を用いた細部への徹底的で妥協なき取り組みによる写実的描写や、美しきドーソンヴィル伯爵夫人の魅力的な顔立ちや表情なども特筆に値する出来栄えであるが、本作で最も注目すべき点はあえて非現実的な人体描写をおこなうことで観る者へ理想的な形体の視覚認識をおこなわせている点にある。伯爵夫人の左肩から背にかけての急激な湾曲は人体の骨格構造的には有り得ないものであり、また両腕の長さも画面奥側の右腕が極端に長く描かれている。しかし画面全体としては人体の不自然さを全く感じることは無く、むしろ湾曲は伯爵夫人の女性らしさを、左右の腕は全身姿態の絶妙な均衡を保たせる効果を発揮している。このような理想美追求のための現実性の変改はアングルの大きな特徴であり、本作には画家の美に対する確固たる信念・対峙がよく示されている。


【全体図】
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魅惑的な表情を浮かべるドーソンヴィル伯爵夫人。伯爵夫人の顎のあたりに軽く添えるような左手の仕草は、2度のイタリア滞在中で熱心に研究していた古代ローマの彫刻に倣った≪瞑想≫を意味するものであり、ドーソンヴィル伯爵夫人の知性と教養の高さを示している。



【魅惑的な表情を浮かべる伯爵夫人】
異なる両腕の長さ。伯爵夫人の左肩から背にかけての急激な湾曲は人体の骨格構造的には有り得ないものであり、また両腕の長さも画面奥側の右腕が極端に長く描かれている。しかし画面全体としては人体の不自然さを全く感じることは無く、むしろ湾曲は伯爵夫人の女性らしさを、左右の腕は全身姿態の絶妙な均衡を保たせる効果を発揮している。



【異なる両腕の長さ】
背後の鏡台に映る伯爵夫人の後頭部。極めて高度で卓越した技術を用いた細部への徹底的で妥協なき取り組みによる写実的描写や、美しきドーソンヴィル伯爵夫人の魅力的な顔立ちや表情なども特筆に値する出来栄えである。



【鏡台に映る伯爵夫人の後頭部】

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