Description of a work (作品の解説)
2008/05/17掲載
Work figure (作品図)
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記憶

 (Memories) 1889年
127×200cm | パステル・画布(厚紙) | ベルギー王立美術館

19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したベルギー美術界の巨匠フェルナン・クノップフ随一の傑作『記憶』。パステルという損傷を受け易い(退化し易い)、非常に繊細な素材が用いられる本作は、7人の同一女性がひとつの風景内で立つという非常に不可思議な作品である。本作に描かれる女性は全て、画家の最愛の妹であり、唯一心を許せた存在でもあるマルグリット・クノップフで、画家は自ら選んだ衣服を着せたマルグリットの写真を撮り、それを基に本作を手がけたことが知られている(関連:『≪記憶≫に用いられたマルグリット・クノップフの写真』)。画家は生涯で妹マルグリット・クノップフをモデルに数多くの作品を手がけているが、本作はその中で最も重要な作品のひとつに位置付けられている。垣と画面左端の木々以外の一切の構成要素が描かれない芝生の風景の中、様々なテニス用の衣服に身を包む7人の女性(マルグリット・クノップフ)は、その視線を誰とも交わらせることを無く、ラケットを手に持ち、ただそこに立っている。この貴族階級のスポーツであったテニスの服装や本作の≪記憶≫という思想的で抽象的な名称は、画家がラファエル前派との交友の為に度々来訪していた英国の諸芸術・文化からの影響が指摘されている。本作の非常に夢想的で非現実的な雰囲気や様子、そしてひとつの個体であるマルグリットが分裂した7人の女性の無機質的な感覚には、フェルナン・クノップフの深層心理世界が表れているのと同時に、希望と絶望が入り混じった、ある種の願望をも感じさせる。さらに全く特徴の無い背景(本世界)や高い写実性には、冷静に自分自身と、そこに共有される(マルグリットを始めとした他者との)世界を観察した、どこか興醒め乾枯しつつある画家の客観的内面を見出すことができる。

関連:『≪記憶≫に用いられたマルグリット・クノップフの写真』
関連:1887年制作 『マルグリット・クノップフの肖像』


【全体図】
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画家の最愛の妹マルグリット・クノップフをモデルに描かれる女性。本作に描かれる女性は全て、画家の最愛の妹であり、唯一心を許せた存在でもあるマルグリット・クノップフで、画家は自ら選んだ衣服を着せたマルグリットの写真を撮り、それを基に本作を手がけたことが知られている。



【マルグリットをモデルとした女性】
テニス用の衣服に身を包む7人のマルグリット。垣と画面左端の木々以外の一切の構成要素が描かれない芝生の風景の中、様々なテニス用の衣服に身を包む7人の女性(マルグリット・クノップフ)は、その視線を誰とも交わることを無く、ラケットを手に持ち、ただそこに立っている。



【テニス用の衣服を着たマルグリット】
分裂した7人の女性の無機質的な感覚。本作の非常に夢想的で非現実的な雰囲気や様子、そしてひとつの個体であるマルグリットが分裂した7人の女性の無機質的な感覚には、フェルナン・クノップフの深層心理世界の表れであると同時に、希望と絶望が入り混じった、ある種の願望を感じさせる。



【分裂した7人の女性の無機質的な感覚】

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